ゴミ屋敷
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汚すぎて触れない潔癖症のジレンマ
潔癖症の人が汚い部屋に住んでしまう理由の中で、最も深刻で理解されにくいのが、「汚れが怖すぎて、掃除ができない」というジレンマです。一般的に考えれば、汚れているからこそ掃除をするはずですが、潔癖症の人にとっては、その汚れこそが行動を妨げる最大の障壁となるのです。例えば、キッチンに溜まった生ゴミ。普通の感覚であれば、鼻をつまみながらもゴミ袋に入れて処理することができます。しかし、潔癖症の人にとって、それは雑菌の塊であり、触れることはおろか、近づくことさえ多大な精神的苦痛を伴います。ゴミ袋に入れる過程で菌が飛び散るのではないか、自分の手に付着するのではないかという恐怖が、体を金縛りのように動かなくさせてしまいます。浴室に発生したカビも同様です。カビキラーをかければ落ちると頭では分かっていても、カビという存在そのものが強烈な嫌悪感を引き起こし、直視することすらできません。掃除機の中に溜まったホコリや髪の毛も、彼らにとっては耐え難い汚物です。フィルターの掃除を想像しただけで気分が悪くなり、結果として掃除機をかけること自体を避けるようになります。このように、清潔を求めるあまり、汚いものへの感受性が極度に高まり、掃除という行為そのものが不可能になってしまうのです。周囲からは「きれい好きなくせに、なぜ掃除しないんだ」と怠慢のように見られがちですが、本人にとっては深刻な恐怖症に近い状態です。清潔でありたいという強い願望と、汚いものに触れられないという現実の板挟みになり、何もできずに部屋が汚れていくのをただ見ているしかない。この苦しみは、経験した者でなければ理解しがたい、潔癖症ならではの深いジレンマなのです。